240万人のアルビストーリー 13

風の強い日だった。
スタンドから臨む新潟市のビル群のシルエットさえかすんでいた。
それでも、ここ公園内にはビッグスワンの開場を待ちきれないサポーターたちが情熱の「オレンジ」を纏って集い、
スタジアム周辺をまきこんだ「決戦」モードを盛り上げていた。
スタンドのなかではキックオフ4時間ほど前から準備は最終段階にはいる。
チアリーダーズの最終リハ、客席のチェック、案内サインの張り出し、そしてグラウンドの最終整備。
そして、社員やボランティア、警備員、警官、物販会社などの人員が最終配置に就くそんななかで、
スタジアムではほかにも重要な作業を担うスタッフがいる。
 
岩田加奈子は警備会社の社員からあたえられた蛍光色ジャンパーに袖を通し、
スタンド下の集合場所で作業の細かな説明、注意を与えられ
バックスタンド1層目の2次ゲートでのチケットチェックの仕事を与えられた。
ここでは観客のチケットの券種を確認し、他のスタンドの観客が間違えて入場することを防ぐ。
ビッグスワンのバックスタンドは毎試合必ず満席になるため客席での混乱を避けるためには
なくてはならないポジションだ。
試合終了後の清掃の作業も担う為、長時間の立ち仕事となり、休憩、交代をいれても結構ハードな内容となる。
その上、非常に数多くの人と接することとなりストレスも大きい。
しかし、加奈子はそんなハードタスクを前にしても、ひときわ柔らかい物腰と笑顔で観客と接していた。
 
彼女は結婚3年目。
結婚まえには旅行会社で添乗員、いわゆるツアコンをやっていた。
「スゴク楽しかった。」
と、遠く当時を振り返るとき、柔らかな笑顔を浮かべ、彼女の「接客」という仕事に対する心からの愛情が感じられた。
そんな彼女にはちいさな悩みがある。
夫が馬鹿が冠するほどの巨人ファン。
対する加奈子はサッカーファン。
二人の間には幼稚園に通う男の子がいる。
当然その子は「スポーツ」を選択しなければならない場面で、夫婦間で板ばさみにあうこととなる。
他人からみれば「幸せすぎる」悩みだろうが、少ない確立ながら、その子供の将来にも関わる可能性もある。
親なら悩んで当然か。
 
試合はいよいよ終盤にさしかかる。
スタンドからの歓声、悲鳴がスタンドへ通じる狭い階段通路上で絶えず交錯する
その「音」が一瞬止み、次の瞬間爆発したような歓声がスタンドで沸きあがり、
その音はまるで突風のようになって加奈子の背中を押した。
アルビレックス新潟のだれかのゴールが決まった瞬間だった。
そのすさまじい「風」は永遠に続くかとも思われた。
加奈子はその歓喜の音に身をゆだねながら思った。
「うちの子にはやはりサッカーをやらせよう」
 
スタンドの歓声が、今また加奈子の背を強く押した。
 
byシュガーレス・ライフ
 
登場人物は仮名です。加奈子さんありがとう。息子さんの活躍を期待しています
 
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