240万人のアルビストーリー 4

今年度も試合日は天候に祟られます。
ひどい強風の中、それでも3万人をはるかに越えるサポーターがガンバ大阪戦に訪れました。
そんなスタジアムで素敵な女性に出会いました。

彼女は強風を避けるように北スタンドの端の壁際に佇んでいた。
まだ試合開始まで1時間近くあり、空いてる自由席に座ることもできるのに、彼女はそうしなかった。
オレンジのレプリカシャツからしなやかに伸びた腕先にある両手は、新潟の選手の健闘を祈るのか、
胸のまえで硬くにぎられ、視線はグラウンドに向けられたまま動かなかった。
肩に軽くかかる程度に伸びたまっすぐな黒髪が、風にかき消されそうな繊細なラインの憂いのある表情を
優しく包んでいる。
不用意に声をかけると彼女の姿はそのまま消え入るのではないかというかすかな不安を覚えた。
 
小林明日香は今年の新潟のホームゲームは毎試合観戦に訪れている。
昨年まで長岡に住んでいて、年に2~3回しかこれなかったサッカー観戦も、
今年から仕事の都合で新潟市に引越してきて皆勤賞を目指す。
「だれか好きな選手がいるのですか?」との私の問いかけには
「いえ、とくに、誰が好きというわけでは・・・ないです」
と、清涼感と明瞭さのなかに、優しさとかすかな恥じらいを含んだ声で答えてくれた。
彼女の心の中は、「新潟」の名のもとに活躍する選手、チームを応援するという、
いじらしいほど純粋な郷土愛に満ち溢れている。
憂いを含んだ彼女のサイドビューは清楚な和服姿を想像させ、
グラウンドを見つめる表情は、まるで2時間ドラマの最後で、
刑事に悲しい現実を突きつけられて耐えている主演女優の風情があった。
 
キックオフ。
彼女の視線はもはやグラウンドに釘づけとなった。
驚いたことに試合が進むにつれ彼女の様子はすこしづつ変化していった。
新潟のピンチになると「北野―っ!」とGKの名前を叫び、
相手のバックパスにはこぶしを前につきだし親指を下に向けるブーイングポーズをとる。
チームや選手を鼓舞する歌にも呼応し、彼女の細い体は上下に律動した。
そして、チームの勝利。
彼女のその小さなこぶしは「アルビレックスコール」のためにうち振られた。
なぜか、そのこぶしには、いつの間にか棒付きキャンディーが握られていた。
それは彼女の持ち物ではなく、彼女の背中でおんぶされ、
ぐっすり眠っていた今年2歳になる彼女の次男「エースケ」が試合開始までしっかり握っていたものであった。
試合が進むにつれ、母親の激しい動きにたまらず背中の「エースケ」は目をさました。
握っていたキャンディーは落ちそうになり、母親にもぎ取られたのだ
 
彼女は選手がゴールウラスタンドへ勝利の挨拶にくるのを待たず、「それでは、失礼します」と、
わたしに丁寧に挨拶するとスタジアムを後にした。
彼女の背中にはシッカリとくくりつけられた「エースケ」が、いまやすっかり目をさまし、「なにがなにやら分からない」
という表情できょろきょろ首を動かしていた。


 

お母さんのはなしでは「エースケ」君はなぜかアルビの応援歌を歌えるそうですが、それは、自然の成り行きであると思います。
他でもない、「おかあさんの歌う」歌を背中越しで聞きながら「エースケ」君は育っているわけですから。
市内のA.Kさんに協力いただきました。
登場人物はすべて仮名です。
 
byシュガーレス・ライフ
 
 
 
 
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