240万人のアルビストーリー 3

日本人の心くすぐる桜の季節真っ盛りですが、花粉症の私にはやや大変です。
この季節は出会いと別れの季節でもあります。

一貴は今日の授業を受けるかどうかを朝から悩んでいた。
それというのも、昨日のサッカーの試合の応援疲れからか体が重く、予習をしておくべき課題も終えてなかった。
それでも、今月の同じ授業を一度休んでおり、ひと月に二度休むのは気が引けた。付け焼刃ではあるが、なんとか課題を済ませ学校へ向かった。
ぎりぎりの時間に校舎に入るとロビーで久しぶりに京子に会った。顔をすこし傾け、しなやかな指をいっぱいに広げて手をふるいつものしぐさで一貴を迎えた。

 
彼女とは、以前まで共通の授業で週一回会う程度でしかない関係ではあったがお互い会話はよく交わした。
しかし、年度が変わり、カリキュラムの変更などあって、ここ一年全く会う機会が失われていた。
一貴は、そんなクラスメートのひとりであった彼女へ、ある特別な想いを寄せていた。

彼女のくわしい住所を知っているわけでなければ、電話番号やメールアドレスさえ訊ねたわけでもない。
したがって、もちろん、「告白する、しない」といった関係になろうという感情も無かった。ただ、彼女の、自分の意見をストレートに言える性格や、それでいて他人の意見にも耳をかたむける謙虚さ、他人を思いやる繊細なやさしさをもちあわせていることに一貴は惹かれた。
それに、なにより、会うたびに見せてくれる明るい笑顔が一貴をいつも癒してくれた。
 
一貴は京子に会うたびにアルビレックス新潟を応援することの楽しさや、サッカーの奥深さを熱く語ったが、彼女は一向にサッカーに興味を持ってはくれず、それでいていつも笑顔で一貴の話をただ静かに聞いていてくれた。
今日、そんな彼女に偶然会えたことで一貴の心はすこし浮き立った。今日の授業をさぼらなくて良かったと、つくづく思った。
髪がすこし伸びただけで以前とまったくかわりない京子の姿が嬉しかった。
 
楽しい再開は一瞬であった。
京子は今月で新潟を去る。6月には結婚式を控えていて、今日は知り合いにお別れを伝えに来たということだった。
敢えて苗字がどう変わるかは聞かない。彼女が選んだのだから相手は「いい男」に違いない。
ロビーから出て行こうとする彼女にいつもどおり手を振った。

彼女の笑顔は相変わらず素敵なままで、顔を傾けるいつものしぐさで手を振りかえしてくれた。
そんな京子と会うのはこれが最後であろう。一貴はいつもより長めに手を振り続けた。彼女も答えてくれた。
彼女の姿が消えたあとで大事なことを京子に言い忘れていたことを思い出した。
 
「結婚おめでとう。どうかお幸せに」


K子さんご結婚おめでとうございます。どうかサッカーチーム、とまではいかなくてもフットサルチームを作れるくらいのお子さんを産んでください。
登場人物はすべて仮名です。
 
by シュガーレス・ライフ

 

 
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